パステルピンクのパワースポット

201407de

 ジャズギタリストというより、ロックバンド「ウィルコ」のギタリストとして知られている(2004年加入)ネルス・クライン最新作の『Macroscope』(2014年)。ジャケットを飾るのは、現代アート作家アンドリュー・マスーロの作品。2009〜2010年に制作され、2012年にホイットニー美術館のビエンナーレで展示された作品のひとつ。クレジットに「オリジナルは8×10インチ」とあるので、意外と小さいこと(iPadくらい)に驚いたが、展示風景写真を見て、さらにビックリ。なんと、縦位置なのである。作品の向きが異なる使用など普通は考えられない。アーティスト草間彌生に捧げた楽曲(⑥)を収録するなど、アートに対する敬意と理解のあるネルス・クラインがそんなタブーを犯すわけはない。…と、調べ辿りついたアンドリューの制作動画を見て納得がいった。一見とてもシンプルな作品は、何ヶ月もかけて、何度も色を上塗りしながら、まるでアメーバのようにカタチを変え続けている。そして、その過程においてキャンバスの向きが何度も変わっているのだ。仕上がるまで、縦になるか横になるかアンドリュー自身にも分からないし、完成作品の向き自体さほど重要ではないようであった。その姿勢は、「5143」という単なる制作順の番号を、作品名としていることにも表れている。
 
 キャンバスに踊る抽象的な造形と、絶妙な色使い(特にパステルピンクの存在感)の作品群は、ポジティブなエネルギーで満ちあふれていて、ネルスの歪みながらも輝きを放つギターとシンクロする。既存のアート作品を拝借するジャケットは少なくないが、このように音楽と共鳴しあうことは意外と稀である。
 
 ネルスに感想を伝えたところ、「アナログ盤のジャケットだと、アンドリューの作品が原寸大になるんだよ」との回答が。恐れ入りました。

Writer: 藤岡 宇央

藤岡 宇央