ドリフトウッド/ウォルフガング・ムースピール

1965年オーストリア生まれのギタリスト、ウォルフガング・ムースピールは、15歳の時から欧州の地でクラシック・ギタリストとして腕を磨き、1986年にジャズを学ぶために米国に留学しました。数年後にはギタリストとしてのその抜きん出た才能と若さに似つかわぬ成熟した音楽性は一気に開花し始めます。若きパット・メセニーが抜けた後12年間に渡って、誰もその穴を埋めることができなかったベテラン、ゲイリー・バートン(vib)のレギュラーの座を見事に得ることに成功し、そのゲイリー・バートンのサポートもあり、若き天才ギタリストとして、次々とリーダー作をリリースしました。

1995年から2002年にかけてジャズのメッカ、ニューヨークを活動の中心とし、90年代に出現した数々の俊英達とプレイを重ねました。5歳年下でありながら、すでにシーンで頭角をあらわし始めていたカート・ローゼンウィンケル(g)とともに、ポール・モチアン(ds)のエレクトリック・ビバップ・バンドに参加し、クリス・ポッター(sax)やクリス・チーク(sax)らとも共演しました。ニューヨーク生活の晩年に録音されたマーク・ジョンソン(b)、ブライアン・ブレイド(ds)とのトリオ作『Real Book Stories』は、当時の彼の集大成ともいえる作品です。その後米国を離れ、故郷オーストリアに活動の拠点を戻し、自身のレーベルや様々なプロジェクトを立ち上げ、自身の音楽を世界に発信してきました。

2008年から活動しているラルフ・タウナー、スラヴァ・グリゴリアンとのギター・トリオ名義での老舗ECMへの初録音『TravelGuide』をきっかけに、ウォルフガング自身にもECMからトリオでの録音のオファーが舞い込みます。トリオからデュオへとより濃密なインタープレイを追求してきた盟友ブライアン・ブレイド、古くはゲイリー・バートン時代にもさかのぼるラリー・グレナディア(b)、10年以上に渡って共演してきた最も信頼する二人を伴って、ECMでの初リーダー作『Driftwood』は、北欧ノルウェイ・オスロのレインボウ・スタジオにて録音されました。エレクトリックのみならず、アコーステック・ギターによるプレイの比率が近年は増し、ECM録音のマジックも加わり、彼のこれまでの作品とは異なる空気感が全体を包み込みます。アルバム冒頭をはじめ、ECMのマンフレート・アイヒャー氏の提案により録音された弱音のフリーフォームな楽曲から、ウォルフガングのオリジナル曲へと聴き進むにつれ、徐々に解放されていく聴覚がその音の陰影を感じるようになります。意外にもECMでは初録音となるブライアン・ブレイドの繊細なドラムスや肉声のように唸るメロディアスなグレナディアのベースラインを始め、三者の音のインタープレイは、聴き込むほどに発見に満ちています。

Writer: 稲田 利之

タワーレコード難波店